圧巻の映像に魂を奪われた! 妻夫木聡主演「宝島 HERO’S ISLAND」改変も腑に落ちた映画版 原作で注目すべき「語り手」とは

推しが演じるあの役は、原作ではどんなふうに描かれてる? ドラマや映画の原作小説を紹介するこのコラム、記念すべき第200回は沖縄戦後史を圧巻の映像で見せてくれたこの映画だ!【画像】「アキサミヨー」「わらばー」知っているとさらに面白い!15の方言
圧倒的な3時間11分だった。見終わったとき、魂(マブイ)を映画に搦め捕られて呆然とした自分と、何かしなくちゃと焦る自分がいた。『国宝』のときにも思ったが、確かに3時間と聞けば長いのだけれど、それだけの尺を使わなければ描けないこと、伝えられないことというのは確固としてあるのだ。

 1952年、コザ(現・沖縄市)で物語は幕を開ける。米軍基地から物資を奪って住民らに分け与える「戦果アギヤー(戦果を挙げる者)」と呼ばれる者たちがいた。彼らの今度の狙いは嘉手納空軍基地だ。しかし米兵に見つかってしまう。散り散りになって逃げる中、リーダーのオンちゃんがその日以来消息を絶った。

 それから6年。オンちゃんの親友でどうにか逃げ延びたグスクはオンちゃんを探すために刑事になった。オンちゃんの弟のレイは嘉手納基地で逮捕され服役、出所後は兄の背を追うようにヤクザになった。オンちゃんの恋人のヤマコは、オンちゃんの戦果で建てた小学校の教師になった。オンちゃんは生きているのか。どこに行ったのか。三人がオンちゃんの面影を抱きながら生きた歳月が、アメリカ統治下の沖縄戦後史とともに描き出される──。

 原作は真藤順丈『宝島』(講談社文庫)。2018年に刊行され、第9回山田風太郎賞と第160回直木賞を受賞した。原作はグスクら戦果アギヤーたちを描いた1952年から54年にかけての第一部、三人がアメリカでも日本(ヤマトゥ)でもない沖縄の立場を思い知らされる1958年から1963年にかけての第二部、本土復帰の機運の中で沖縄の軋みが高まる様子を描いた1963年から72年の第三部という構成になっている。

 ここで描かれるのは、故郷を奪われた人々の物語だ。真藤順丈の筆は、沖縄戦後史の大小さまざまな事件を取り入れながら、沖縄の人々がどのような状況に置かれていたのかを容赦なく抉り出していく。1955年に起きた米兵による幼女強姦殺人事件、1959年の米軍機小学校墜落事故、1969年の毒ガス漏洩事故、そして1970年の糸満主婦轢殺事件に端を発したコザ暴動。日本は沖縄の人々を守ってくれず、本土返還が決まっても基地は残る。何も変わらない。ただ搾取されるだけの忍従を強いられた日々に、彼らは声を上げ始める──。

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