ロシアのウクライナ侵攻は、世界中でエネルギー価格を上昇させインフレを引き起こした。ロシアは、主要国の経済だけでなくエネルギー政策も大きく変えた。【図表】ロシア産エネルギー輸入はどう変わったのか欧州諸国は、脱ロシア産化石燃料のためエネルギー自給率向上を打ち出した。具体策は太陽光、風力と原子力発電導入だ。
今まで原発に反対姿勢を示していた国が原発導入の検討を始めた。たとえば、脱原発国イタリアだ。
1987年の国民投票で決まった脱原発を実行したイタリアでは、今年10月3日に閣僚委員会が原発の再導入を決定した。今後議会に諮られる。
脱原発方針を変えたのはイタリアに留まらない。脱原発方針を持っていたベルギー、デンマーク、スウェーデンも政策を変更した。
23年に脱原発を実行したドイツ政府も欧州連合(EU)27カ国中15カ国が参加する原発推進のための組織、欧州原子力同盟の今年6月の会議にオブザーバー参加した。
22年2月のロシアのウクライナ侵攻により、日本を含めた主要国は対ロシア制裁を実施。その一環として脱ロシア産化石燃料に踏み切り、需給バランスが崩れエネルギー価格が大幅に上昇した。
それまで、欧州諸国はロシア産化石燃料に大きく依存し、競争力のある価格でロシア産天然ガス、石油、石炭を輸入していた。産業も家庭も不安を感じることはなかった。
ロシア産エネルギーへの過度な依存については、ロシアの侵攻前に何度もEU内で取り上げられ、安全保障上のリスクと指摘されていたが、EU諸国は安価なロシア産エネルギーにどっぷり漬かり戦争が始まるまで抜け出せなかった。
今、欧州諸国が目標とするのは、自給率向上と同時に脱ロシア産化石燃料を進めれば達成が容易になる脱炭素だ。しかし、EU諸国は、数量は縮小したとはいえ、ロシア産天然ガスと石油の購入を続けている。
ロシア産原油、石油製品、石炭については、欧州委員会は輸入禁止を宣言しているものの、親ロシアとされるEU内のハンガリー、スロバキアは代替が困難と主張し石油の輸入を例外として続けている。
結果的に、ウクライナを支援する欧州諸国は対ロシア制裁を実行しながら、依然としてロシアの戦争を資金面から支援している。欧州諸国がロシアに支払った化石燃料代金は、ロシアの侵攻前からは大幅に減少したものの22年2月の侵攻後から今年10月初旬までで2150億ユーロ、37兆円を超えている。
対ロシア制裁に加わっていない中国、インド、トルコなどは、欧州諸国が買わなくなり余剰になったロシア産化石燃料を購入し、資金面でロシアの支援を続けている。
ロシアとウクライナの仲裁に乗り出したトランプ大統領は、ロシアがテーブルにつく様子を見せないことから、ロシアへの資金提供を断ちロシアを応じさせようとしている。